花のお話 その26「花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき」


■高等女子学校を卒業してからは遊学中の恋人を頼って上京し(この辺りで林芙美子の激情的な一面が感じられます)、その後はまさに「放浪記」。下足番や女給などで自活し、露天商を手伝ったりして生きていきます。時代は大正です。この時代に、女性が見知らぬ街で生きていく事が容易ではなかった事、想像に難くありません。結局、上京のキッカケとなった恋人とは破局を迎えます。
■今回は直接「花」の話ではないのですが、この「花の命は短くて」の詩に以前から妙な違和感を感じていました。確かに、自然にあっても花の命は短いのですけど、それは「美しく」、「苦しきことのみ多かりき」という結びは、それが人の「情感」であったとしても、「?」なのです。そうなのでしょうか? 有名な言葉(詩)ではありますが、どこか突き放されたような感のみの言葉を、林芙美子は何故、ことさらに残したのでしょうか。特別にこだわりのある事ではないのですが、この言葉(詩)に出会う度、同じような違和感をいつも覚えていました。
■もともと、この言葉は彼女のどの作品、著作物にも見当たらないそうです。いきなり、このようなワンフレーズだけが生まれてきたのでしょうか? しかし、そうではなかったようです。WEBの上にその答えがありました。たまたま見つけただけですけど。次のような、彼女の「未発表の詩」があります。
---------------------------------
風も吹くなり
雲も光るなり
生きてゐる幸福は
波間の鴎のごとく
漂渺とただよい
生きてゐる幸福は
あなたも知ってゐる
私も知ってゐる
花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かれど
風も吹くなり
雲も光るなり
---------------------------------
■これは林芙美子と親交のあったある女性が贈られたものだそうで、確定した事実とまではいかないようですが、詩は「苦しきことのみ多かりき」で終わってはいなかったのです。「苦しきことも多かれど」。その前には「生きている幸福は あなたも知ってゐる 私も知ってゐる」の言葉が連なり、「風も吹くなり 雲も光るなり」と結ばれます。私はこの詩を見て、長く感じていた「違和感」が消えました。風が吹き、雲が光る中に凛として咲いているのは、芙蓉の花であると思います。林芙美子の「芙」です。
花のお話 目次へ
★花の詩紹介 花の詩8
★花の詩紹介 花の詩4
★花の詩紹介 花の詩1
★花の詩紹介 花の詩6
★花の詩紹介 花の詩2
■これからギターを始められる方のご参考にでもなれば。
