花を飾る 日常をホンノリと彩る…

花のお話 その55「いたりいたらぬ さけるさかざる 声に出してこその歌」



トピック イメージ 花 古今和歌集に「春の色の いたりいたらぬ さとはあらじ さけるさかざる 花の見ゆらむ」と言う詩があります。「詠み人知らず」の詩です。漢字で表記した方が分かりやすいですね。「春の色の 至り至らぬ 里はあらじ 咲ける咲かざる 花の見ゆらむ」、です。でも、この詩は何となくですけど、仮名で記した方がなぜかしっくりくるのです。おそらくは、この詩の「リズム感」がそう思わせるのでしょう。「いたりいたらぬ」と「さけるさかざる」の箇所ですね。ただ、この詩の意味を考えると、ちょっと軽い混乱を覚えます。

こんな感じの訳になるでしょうか…。「春の気配が感じられる里とそうでない里があることはないだろう。しかし、それなのに咲いている花、まだ咲いていない花が見えるというのは、どういうことなのだろう」。ちょっと、不思議な感じのする詩です。大外れ覚悟で推量するなら、これは実際の景色を、高い山の上から俯瞰した位置で詠んだ詩か、もしくはそれにかけて「男女の機微」を詠った詩ではないでしょうか。ちなみに、毎度のご説明ですが、私は俳句も和歌も「詩(うた)」という言葉で括ります。それは、形式の中にあろうとなかろうと、その心は詩人であると思うからです。まあ、それは個人的な事なのですが、この詩に関しては「歌」と言いたくなります。

古今和歌集が完成したのは905年、もしくは912年であるとの説があります。いずれにしても、この古今和歌集には、万葉集から漏れた、というか載せきれなかった(?)歌や、宮中で多少洗練されて新たに詠われた歌が混じって選ばれています。つまり、万葉の時代の雰囲気を多く残している歌がたくさん含まれていると思っています。私は文字として見ることを前提にして「詩」と記しますが、万葉の時代ではそれは確かに「歌」であったと思います。日常会話としての言葉はありますが、特に情感を込めて「想い」を言葉にする時、それが「詩」となって「歌」になるのだと思います。つまり、声に出して「相手に伝えるもの」であるという事です。その中心となるのは、「男女の情」に関するものでしょう。

万葉集には、詠う内容によって「雑歌(ぞうか)」「挽歌(ばんか)」「相聞(そうもん)」という三つの区分がありますが、「雑歌=一般的な色々な歌」、「挽歌=亡くなった人を悼む歌」、そして「相聞」は親や兄弟などが対象にもなりますけど、多くは男女の愛の歌ですね。「相聞」とは「愛する者同士が詠み交わす歌」という意でしょう。一方通行もあるようですが。有名なのは額田王(ぬかだのおおきみ)の「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」でしょう。それに返された詩はあまり面白くありませんので省略。

で、先の詩なのですが、これは「相聞歌」ではないかと思っています。そう考えて訳してみると「私の想いがあなたに伝わるのか伝わらないのか、伝わらないという事は無いと思うけど、その想いが花咲くのかどうなのか、心の中で入り乱れている」、でしょうか。もちろん、一般にこのような訳をされていることは、私の知る限りありません。しかし、そのように想像してしまうのです。理由は、冒頭で述べた「これは歌」であるということです。意味はさて置き「いたりいたらぬ」「さけるさかざる」なんて、声に出して読みたくなるじゃないですか。そこにこそ、この詩の面白みがあると思います。「恋の想いが叶う予感と、もしそうでなかったらという不安」が入り乱れて、その想いが声になって歌となるのです。

この時代のストレートな多情多感さを感じてしまう詩です。詩とは色々な角度から解釈してみたり、詠んだ人の心情をあれこれと推し量ってみるのが楽しいのです。ところで、万葉集でもよく「詠み人知らず」と記されている場合がありますけど、本当に「詠んだ人が分からない」というものもあるのでしょうが、その詩の作者として名前を出せない、という事情もあったようです。既婚者が、他の人への想いを詠んでいることがバレたらどうなるか、それは今も昔も同じでしょうね。

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