花を飾る 日常をホンノリと彩る…

花のお話 その61「蕾に予感し 満開に色めき 散りゆく趣 "桜の春"は何時から…」



花のお話 我が家の目の前にある公園には大きな桜の木が二本あり、毎年、贅沢なことに、時にはその景色を独占することもあります。昨年、枝を払われたので少しばかり花の密度が薄くなったような気はしますが、それでも見事に咲き誇ってくれています。まだ、寒い時分にプクリと膨らんでいる蕾に春の到来を予感し、そして満開の時を迎えると誰しもがその見事さに色めきます。やがて花はチラホラと散り始め、風の強い時にはまさに花吹雪で、辺りの空気を霞ませるほどに花びらが舞い踊ります。毎年毎年の景色ですけど、年に一度のその宴に、「また今年も…」といった、感謝にも似た気持ちを持って臨んでいる自分がいます。多くの人が同様であると思います。家人が言います。「一年の中で文句なしに楽しい季節。何があろうと」。

古今和歌集で在原業平が詠った「世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」は、逆に言えばそれほどに人の心を浮き立たせるのが桜なのでしょう。古今和歌集では「桜」を詠んだ句が七十首もあるようです。では、万葉集ではどうでしょうか。その中で「桜」を詠んだ歌は四十数首のようで、それに比べて「梅」を詠った歌が百十首ほどあるようです。古今和歌集の中で「梅」を読んだ歌は十八首程度。万葉集から古今和歌集へと移る時代の中で、「桜」が「梅」に替わって大躍進し、大きく逆転しています。何故でしょう? 

おそらくは、時代背景として遣唐使が廃止され、それまでの大陸文化の影響が薄れ始め、日本独自の風土や文化に根差した国風文化への変遷の中で、大陸的な文化(=インテリジェンス)「梅を愛でる」気風から、その対象が「桜」へと変わっていったのでしょう。しかしながら、ここに「インテリジェンス」の言葉を入れたのは、知識人である貴族階級の中でそうした変化が起こったのだと思うからです。つまり、主な場は宮廷の中。一般にはまだ、万葉的な気風を残している時代ですから、まだまだ「春」の主役は「梅」だったのではないかと思います。

「桜」と言っても、この時代には今のようなソメイヨシノは無く、いわゆる山桜が宮廷内で愛でられ始めていたという事で、平安の時代、野生の桜が宮廷内に移植され始めていたようです。ここで、素朴な疑問が湧いてきます。それまでは、事情がどうあれ「梅」が春の花の主役であったのに、何故それが「桜」へと変わっていったのでしょうか。その時代的背景は先ほど書きましたが、変遷する対象が何故「桜」だったのでしょう、という事です。万葉集では「梅」の他に、「萩」や「橘」も好まれていました。一気に「桜」の木が増えたのでしょうか? それはあり得ないと思いますけど。

おそらく、ですけど、その答えは古今和歌集の有名な歌にヒントがあるように思います。その一つは紀友則の「久方のひかりのどけき春の日に しづ心なく花のちるらむ」。さらには小野小町の「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに」。面白い歌に、紀貫之の「一目見し君もやくると 桜花 けふは待ちみて ちらばちらなん」という一首があります。ちなみに、先の紀友則は紀貫之の従弟です。この紀貫之の歌を意訳すれば「愛しいあの人が来るかもしれないので、桜よ、今日は散るのを待ってくれ。もし来なければ、勝手に散ってくれ」でしょう。小野小町の歌はちょっと女性的には気が重くなるような歌ですけど、桜花の儚さを自らの美貌の衰えにかけているのでしょう。いずれも、「待ってくれ」と言いたくなるような気持ちの中で潔く散っていく桜に対する想いを詠っている歌だと思います。

そこに見えるものは「無常観」です。おそらく、四季の変化が激しいこの国の中で、その精神文化としてすでに「無常観」が根を下ろしつつあるのでしょう。「蕾」から一気に満開の桜となり、そして、「待ってくれ」と言いたくなるほどに見事に散っていくその姿に、濃縮された無常観を否応なく募らせ、それが独特の「美意識」へと昇華していったのではないでしょうか。「梅」にはそのような「ドラマ」はありません。もちろん「梅」は梅で、一幅の絵のような世界を持っていますけど。「桜」の中に込められた思いが江戸期の終わりにソメイヨシノを創り出し、この国の美意識にこれ以上ないほどの情緒を生み出したのでしょう。

なごり雪(本来的な表記は「名残の雪」)のように舞い散る桜の花びらを眺めていると、毎年毎年感じることです。そしてまた、来年の桜を待って、一年を過ごしていきます。

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