花を飾る 日常をホンノリと彩る…

花のお話 その64「北陸の地で、十個の球根から 日本のチューリップ」



花のお話 チューリップは「毎日の花」の中でも何度か登場しています。単体で飾っても優美な姿で目を楽しませてくれますし、他の花に添えても「名脇役」のように全体を優しい雰囲気にしてくれます。ですが、この独特の造形を持った花は、その控えめな美しさとは裏腹に、人を踊らせた歴史も持っています。17世紀のオランダで起きた「チューリップバブル」という、人の欲が起こす狂乱です。本編の「その20」に書きましてので、ご興味がおありの方はお読みください。それ程にこの花は人の心を強く引き付けるのでしょう。そのシンプルな姿に似合わず…。

ヨーロッパでは長い歴史の中で愛されてきたチューリップですが、では日本ではどのように育ってきたのでしょうか。それは北陸の地、富山県で大正7年(1918年)に「十個の球根」から始まったようです。ある青年が、北陸の寒冷な冬場の農閑期に適した作物は無いかと試行錯誤する中で、試しに植えたその「十個の球根」が田圃の隅で見事な赤い花を咲かせ、それが思わぬほどに人を惹きつけ、高値を付けたことから始まったということです。その青年の名は水野豊造(みずのぶんぞう)。「チューリップの父」と呼ばれ、富山にチューリップ王国を築いた方です。

こうした成功物語・開発物語の中には多くの艱難辛苦が語られるものですけど、水野豊造にもそれは訪れます。試しに植えたチューリップが思わぬ高値で売れ、本格的にチューリップ栽培を行おうとする最中で、せっかく咲かせたチューリップの花を全て盗まれてしまうという事件が起きます。これには「花泥棒」の「粋」など微塵もありませんね。高値で売れるチューリップを、盗んだだけでしょう。お金になるなら何でも盗む輩は哀しいことに、どこにでもいるのです。水野豊造は悲嘆にくれますが、それが富山をチューリップ王国とするキッカケになるとは、誰にも想像できなかったでしょう。水野豊造は失意の中で、茎が枯れ始めたために、土を掘り返しますが、そこに丸々とした球根が育っているのを見て驚きます。

水野豊造がチューリップを植えた、富山県の礪波郡(となみぐん)は、適度な雨に恵まれ、冬は雪に覆われて一定の地温と水分が保たれる砂質の、チューリップの球根にとってまさに栽培適地だったのです。皮肉にも泥棒がきっかけとなって、この砺波の地がチューリップの球根産地となるのです。そこには決して恵まれた環境になかった水野豊造がここぞという時に発揮した強運もあったのでしょうか。「花ではなく、球根を栽培してそれを売る」。チューリップの球根栽培農家が砺波の地に増えていき、土地を豊かに潤してくれます。

しかし、豊かになればそれなりに人の欲が複雑に絡み合い、様々な争いや問題を引き起こしたそうです。そして、戦時の日本に対する米国の経済制裁で、大口の輸出話が消え失せ、国内でもチューリップは贅沢品と見做されて、栽培する農家は非国民扱いされることもあったとか…。それでも水野豊造は「戦争はいずれ終わる。平和が来れば花が必要になる」との強い信念で球根栽培を細々と田畑の隅で、人目から隠すようにして守っていきます。そして平和が訪れ、そのチューリップは様々に品種改良され、まさに平和を彩る花となります。戦後に育成した新品種の名前は「平和」。そして、「天女の舞」「王冠」「黄の司」「月浪漫」「恋茜」など、艶やかな品種が次々に誕生します。

水野豊造の情熱なしには、日本のチューリップはこれほど鮮やかに花開かなかったでしょう。決して丈夫に生まれた訳ではない水野豊造につけられたあだ名は「機関車」だそうです。何があろうと前に進むその姿がそのあだ名となったのでしょう。チューリップの花のたおやかさとは少し似つかわしくないあだ名ですが、厳しい冬の中、その土の下に育つ球根は、まさに機関車のあだ名にふさわしい「力強さ」に支えられてきたのでしょう。
チューリップ イラスト
ちなみに、幼い子供に「花の絵を描いてみて」と言うと、チューリップの花を描く子供が多いという話を聞いたことがあります。そういえば、幼稚園の飾りや子供のファンシーグッズなどにもチューリップが描かれているものがけっこうあるように思います。子供にとって、チューリップのシンプルで、それでいて優しくカラフルなその姿が、「花」というイメージにつながりやすいのでしょうか。いずれにしてもその独特のスタイルは、子供だけでなく大人も強く惹き付ける造形美を持っています。

いつも思うことですけど、自然をデザインしたのは、いったい誰なのでしょうか。

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