花を飾る 日常をホンノリと彩る…

花のお話 その68「夏ツバキ 森鴎外の愛した沙羅双樹の花」



花のお話 ツバキはツバキ科の常緑中木で、学名は "Camellia japonica" 。日本では、垣根や庭木としてポピュラーな花です。そのツバキの見ごろといえば「冬」というより「寒い時期」と答えたくなりますけど、この花には数千の種類があるといわれ、品種改良は現在でも行われています。ですから、「ツバキにも色々あるから…」なんて無粋な答えになりそうですが、まあ、「冬から春にかけて」と答えれば間違いではないはずです。ちなみに、ツバキに似ているサザンカですけど、どちらもツバキ科ツバキ属ですが、サザンカの見ごろといえば「冬」で間違いないでしょう。

しかし、冬から春と開化の季節が長いツバキの中に「夏ツバキ」という花があるそうです。やはり原産地は日本で、ツバキ科ナツツバキ属の落葉高木。樹高が10mにもなるそうです。ツバキの中には、早秋咲きといわれる9月~10月に咲き始める品種もあるようですけど、それと「夏ツバキ」は別物です。「夏ツバキ」の花期は6月~7月。ツバキの方は照葉樹林の代表的な樹木で常緑樹ですが、この「夏ツバキ」は落葉樹で、秋には紅葉し、冬にはすべての葉を落とすようです。別名を「シャラノキ」「サラノキ(沙羅の木、沙羅樹)」。直径5cmほどの白い5弁の花を咲かせ、朝に開き、夜には落ちてしまう一日花です。その様から、「儚さ」「無常観」「盛者必衰」といった心情を感じさせるのか、「沙羅の木」といった別称を持つのでしょう。

「沙羅の木」は釈迦入滅の時、その傍らに咲いていた、インド原産の常緑高木樹、フタバガキ科の「サラソウジュ(沙羅双樹)」で、あの平家物語の冒頭で謡われています。しかし、「夏ツバキ」は「沙羅の木」とは呼ばれても、このインドの「サラソウジュ(沙羅双樹)」とは全くの別物で、こちらは日本に自生していません。「夏ツバキ」の花が「サラソウジュ」と似ていて、同じような季節に白い花を咲かせることから、この「夏ツバキ」を寺院などに植えたことから、「沙羅の木」と呼ばれるようになったのでしょう。

ちなみに、夏に咲いて、その幹の皮が剥がれてツルツルとしていることから、「サルスベリ」と呼ぶ地方があるそうです。

そして、あの明治の文豪、森鴎外はこの「夏ツバキ」を好んだようです。鴎外の詩に下記のようなものがあります。

褐色(かちいろ)の根府川石(ねぶかはいし)に
白き花はたと落ちたり、
ありとしも青葉がくれに(もとの青の字は下が円)
見えざりしさらの木の花

根府川石とは、小田原市の根府川で産する板状節理の安山岩のことで、碑石や庭園用の材として使われていた石であるとのことです。その石の上に白い花が「はた」と落ち、落葉していく様のなかに、釈迦入滅の時に、その傍らに咲いていた沙羅双樹の姿を重ねていたのでしょうか。

森鴎外にはガーデニングの趣味があり、自宅の庭で多くの植物を育てていたようです。文京区にある「森鴎外記念館」の庭には、「夏ツバキ(沙羅の木)」が植えられているそうです。明治という、あらゆるものが近代化という猛烈な時流の力で、抗いがたく姿を変えていく日本を、鴎外は「儚さ」「無常観」をもって眺めていたのでしょうか。「夏ツバキ」の姿に、そんな想いを感じてしまいます。

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